アマテラス伝承 天の岩屋戸こもり

 

昔々、高天原でスサノオノミコトが乱暴を働いて機織りの女を殺す出来事が起こり、天照大神が弟の乱暴に怒って、
岩屋の中に身を隠しておしまいになられました。
太陽が出ないので、高天原も葦原の中国(なかつくに)も真っ暗になって、国中にさまざまな災いがはびこりました。
そこで神々が集い、鏡と勾玉を造らせ、榊の枝に勾玉の玉飾りと八咫鏡(やたのかがみ)をかけ、
さらに白い幣(ぬき)と青い幣とをかけました。
そしてアメノコヤネノミコトが祝詞(のりと)をあげ、岩屋の戸の側にアメノタヂカラヲノカミが潜んで
待ちかまえます。
その時、アメノウズメノミコトが、日陰蔓で編んだ襷(たすき)をかけて、
正木の葛(まさきのかずら)を髪飾りにし、天の香具山にある笹の葉を束ねて手に持ち、
岩屋の前に桶を伏せ、その上に立って、桶を踏み鳴らして大きな音をたてながら舞い歌うと、
「神懸りして」乳房も陰部も露わにして踊り狂いました。

 すると岩屋の中にいたアマテラスが、暗い中でアメノウズメがどうして賑やかに踊って
神々が笑っているのだろうといぶかって、岩屋の戸を少し開けると鏡に自分の姿が映り、
それがもう一つの太陽に見えたのでしょうか、驚いてその姿をのぞき見ようとしたところを、
アメノタジヂカラヲノカミが、その手を取って外へ引き出し、
二度とアマテラスが岩屋に入らないように注連縄(しめなわ)を張ったので、
再び天にも地にも太陽が戻りました。
めでたしめでたし。

日本の神道豆知識


 この話にはすでに、鏡、勾玉をはじめ、榊、注連縄、御幣、祝詞など、
巫女の神憑りの儀礼に関わる道具立てが全てそろっています。
また、太陽が隠れるという不作・凶作を象徴する出来事に続いて様々な災いが国を襲ったこと、
この災いを「祓う」ために、歌舞の祭儀がおこなわれ、
そこに神が降って巫女が神憑りになり、再び世の中が明るくなるという、
アマテラス信仰に基づく神憑りの祭儀と、これが生じた社会的な背景が国レベルで語られています。
乳房と陰部を露わにするのは、自然の生命力を取り戻すことを象徴しています。
スサノオノミコトが機織りの女を殺したとありますが、織物は、古代のヘブライやギリシアでも、
霊感の象徴として語られています。
ここでも殺された機織り女が、霊感すなわち神憑りと関係があるとすれば、
スサノオの乱暴(彼のした乱暴は農耕社会の掟を破ることでした)のために
凶作・飢饉などもろもろの災いが生じたことになります。
アメノウズメノミコトの神憑りについては、
「神霊が霊媒者に乗り移り、この忘我の状態で神託を述べる」
(『古事記・上代歌謡』日本古典文学全集、小学館、1982年)という注がつけられていますから、
彼女は、国の政(まつりごと=政治)に関わる重要なお告げをする巫女であったと思われます。

 

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